お米は価格だけではない! おいしさや味わいを言葉化してみる【ライター柏木の「お米沼にようこそ」第10回】
お米ライターの柏木智帆です。
近年では栽培中の暑さによってお米の品質に影響が出ています。令和7年産米も猛暑と渇水の影響で地域によっては品質・収量が落ちてしまうでしょう。それでも、稲は過酷な環境下を生き抜き、お米を実らせてくれました。だからこそ、そのお米と向き合って、そのお米の“顔”を見るように、その年の環境ごと味わうといった心意気で食べたいと感じています。
お米の価格が高騰したことで、価格ばかりに注目が集まり、「おいしさ」や「味わい」が置き去りになりがちです。そこで、連載最終回となる今回は、
改めてお米の味わいという価値に注目したいと思います。
主食用米が減反から増産の方針に切り替わったことで、お米の価値について「上げていこう」「伝えていこう」という声を耳にする機会が多くなりました。その価値の一つとして挙げられているのが「
食味(味わい)」です。
「食味」の定義は人によって違い、多くの人は「コシヒカリは粘りが強くて甘さが強くて……」といった具合に品種特性を指しているようです。中には、「このお米はもっちりとして柔らかくて……」「ぱりっとした粒が感じられて……」というふうに、特定のお米のおいしさを指す人もいます。いずれの場合も、「甘さ」「硬さ」「粘り」の強弱への言及が多いと感じます。
ただ、お米の味わいの魅力はそれだけではないと感じるのです。
日本酒をヒントにお米の味わいを言葉にしていく
食味から見たお米の価値を考えていく上で、ヒントになったのは日本酒でした。
私は日本酒が大好きで、毎日の晩酌は決まって日本酒です。まずは飲んでみて、感じたことをメモします。それから、さまざまな酒販店のwebサイトなどで、その日本酒の商品紹介を読んでいきます。自分が拾えなかった感覚に触れてから再び日本酒を飲むと、新たに感じ取れることがあるのです。
たとえば、「気品に満ちた甘み」「しっとりとふくよかな香り」「シャープな香り」「枯れた木のようなニュアンス」「輪郭がはっきりとした酸味」「縦に切れる酸味」「骨格が太い酸味」。こういった言葉表現に触れたからこそ、開く感覚があります。
この「言葉」と「感覚」の不思議な関係には、お米の「価値」を上げるヒントが隠されているように感じています。そのお米の味わいを言葉で表現することによって、甘さや粘りなどの強弱だけにとどまらない、そのお米の絶対的な価値の創出につながるのではないかと思っています。
昨年、同じような問題意識を以前から持っていた静岡県「安東米店」の店主・長坂潔曉さんと、お米アドバイザーの門之園知子さんと一緒に「玄米の味わいを言葉で表現するワークショップ」を始めました。
「玄米の味わいを言葉で表現するワークショップ」の様子
なぜ玄米にしたのかと言うと、比較的味わいの言葉表現を出しやすいから。ご飯の味わいは、日本酒やワイン、コーヒーなどに比べると、言葉表現に乏しいのが現実です。精白したお米は特にそう感じます。
しかしながら、静岡県で毎年開かれている勉強会では、巨大胚芽品種「カミアカリ」の玄米ご飯に対して「
草のような香り」
「チョコレートのような風味」といった表現が当たり前に使われていました。精白していないことに加え、お米の持ち味、勉強会を主宰する長坂さんや参加者たちの感性なども影響していたと思います。
私も参加してみると、思いがけず「トウモロコシのような風味」「パクチーのような風味」といった表現が出てきました。すると、その言葉の対象となった玄米の“顔”が見えたような感覚になりました。
絶対的価値観でお米の価値を可視化する
そうは言っても、私は私がおいしいと思えるご飯が大好きです。毎年秋から冬にかけて各地で開かれるお米のコンクールでは、審査員としてご飯を個人的な相対的価値観で評価しています。一人でも多くの人に評価されるおいしいお米を目指して、お米作りに全力を注いでいる農家の姿はとても魅力的で、私はこの世界観もとても美しいと感じています。
一方で、お米には相対的価値とは別の絶対的価値もあると思っています。それを探る一つの手段がお米の味わいを言葉で表現することだと現段階では思っています。
ご飯を食べた感覚を言葉で表現して可視化することは、すなわち価値の可視化であると感じるのです。
ただ、こうした感覚は経験によって違ってきます。たとえば、ジューシーで甘酸っぱい日本酒に対して「大人のラムネ」という表現を使う人がいます。子どもの頃に飲んだラムネを彷彿とさせる甘味と酸味のバランスと発泡感があったり、そこにほのかな苦みがあったりするためですが、これは子どものころにラムネを飲んだことがある人が多いからこそ通じる表現です。
また先ほどの「気品に満ちた甘味」という表現は、「気品」に対するイメージが人によって異なってきます。ある人はある俳優を思い浮かべるかもしれませんし、ある人はある花を思い浮かべるかもしれませんし、ある人は歴史上のある人物を思い浮かべるかもしれません。具体性はなく、なんとなく凛とした感覚、なんとなく清廉な感覚をイメージする人もいるかもしれません。
人によって経験や記憶、感覚が違うからこそ、お米との出会いはおもしろく、感じる価値も人によってさまざまです。もちろん「一定のおいしさ」はあると思いますが、
誰かにとっての「おいしいお米」は自分の「おいしいお米」と必ずしもイコールではなく、逆もまた然りだと思っています。

現在はうるち米だけで300品種が作られていますが、同じ品種ならば同じ味わいというわけではありません。
日本列島には25度もの緯度差があり、田んぼのある標高や土壌もさまざまです。さらに、生産者の栽培方法や技術によってお米の味わいは変わります。ご飯を食べて表現した言葉そのものが価値となる場合もありますが、
私は感覚を言葉で表現しようとしてご飯と向き合う行為そのものも、とても価値のあることだと思っています。
お米の価値は作り手だけではなく、食べ手がその価値を感じることで成り立ちます。お米に対する知識をつけることも感度の向上につながると思いますが、まずは日々の食卓のご飯の味わいに少しでも目を向けてみることをおすすめします。もしかしたら、これまでと違う価値を感じたり、これまで以上に価値を感じたりするかもしれません。
あって当たり前の存在だったお米がなくなったり高くなったりした「令和の米騒動」で、改めてお米に目を向けるきっかけになったという人もいると思います。連日お米の価格に関するニュースが続いていますが、ごはんを頬張れる幸せを噛み締め、お米や米食文化を大切にしていこうという気運の高まりにつながることを祈っています。
連載を読んでいただき、ありがとうございました。
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柏木智帆
米・食味鑑定士/ごはんソムリエ/お米ライター
神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。
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